中身のない瓶詰め
第二話
やっと激しい愛撫から解放され、長谷部は魂が抜けたようにボーッとしていた。しかし休む間も与えず、三村は俯せになっていた長谷部の股間に、大量にローションを塗ったくってきた。
「うわっ! つ、冷てっ! 何すんだよっ!!」
「大人しくしてろ」
有無を言わさず長谷部の体を押さえつけ、アナルに指を進めてきた。ローションのお陰で、少し指が中に入る。
「……っ、き、気持ち悪い、やめろ!」
異様な異物感に、全身に鳥肌が立つ。仰け反って抗おうとするが、馬乗りに跨って押さえつけられ、胸が苦しくて息をするのがやっとだった。
「こ、こんなコトするなんて、訊いてな……」
「本番モノとして売るんだから、やんなきゃ金取れねえだろ?」
三村の眼鏡の向こうに、冷たい眼を見たような気がした。勿論、こちらを向いていないためその表情を伺うことが出来なかったが、長谷部はその眼が見えたような気がした。
三村は昔から、情とか人間味とかが欠落した人間なのだ。判っていたはずなのに、この話をOKしてしまった自分のバカさ加減を、長谷部はただただ後悔した。
「な、何塗ったんだ……? 何ンか、変、だ……」
何度も出したり入れたり指の本数を増やしたりして、すっかり長谷部のそこもほぐれ、妙な異物感があるだけで、痺れて感覚が無くなっていた。でも熱いのだ、そこばかり。
「ん? ああ、ちょっとな、良いローション使ったんだ」
いわゆる催淫剤入りローションだった。こういったことの用意はどこまでもいい奴だった。
「よし、そろそろいいかな」
そう言うと、三村はこのとき初めて服を脱ぎ始めた。ズボンに手を掛けてずり下ろし、すっかりそそり立った自分のモノにコンドームを被せローションをたっぷり塗ると、長谷部の下半身にあてがった。
「……ッ!! 」
今までにない質量のモノが中に入り、長谷部は思わず目を剥いた。悲鳴にならない悲鳴を上げる。
「……チッ。やっぱり一度に全部は入らないか」
三村のモノはまだ半分ほど入りきれず、青い筋を立てていた。
「おい、もっとケツ上げて、力を抜け」
「……何で、お前にそんなことまで言われなきゃいけないんだ」
長谷部はシーツを握りしめながら、僅かな抵抗を示した。すると、三村は自分で長谷部の腰を持ち上げ、少し乱暴に揺さぶった。強引に腰を進めてくる。
「……っ、痛てェ、痛いって!」
長谷部は悲鳴に近い声を上げる。しかし三村は腰の動きを止めようとはしない。なんとか三村のモノは長谷部の中に収まったが、出し入れはせずに、グラインドさせるように腰を動かした。
「大丈夫、そのうち気持ち良くなって来るって」
「な、なるわけねえだろ、馬鹿野郎……」
悲鳴を上げすぎて声が掠れてしまっていた。ジンジンとした痛みと、異様な異物感と、痺れたような感覚が長谷部の中を渦巻いていた。でも、沸き上がってくるような熱さがあるのは、さっきのローションのせいだろうか。
すると、三村は腰の動きを少し変えてきた。ふいに、妙な快感が、長谷部の背中を貫いた。
「あ…あ…」
そんなところに快感のポイントがあるとは思わず、自然と声が漏れる。それを見ると三村は同じところを何度も刺激してきた。長谷部のモノにまた血液が集まりだし、甘い快感に手先や足先が痺れてくる。
しかし、シーツを掴んで仰け反りながら長谷部はその快感に耐えた。三村に入れられて感じている、というのがとにかく嫌だったのだ。でもその意志に反して、長谷部のモノはすっかり濡れて透明の液体を滴らせていた。それを、三村はそっと触れて、先の方を撫でた。クチュ、と淫らしい音がした。
「ん、あ……」
長谷部はもう、我慢の限界だった。腰が疼いて疼いて、頭の中も白濁していた。もっと快感を得ようとさらに腰を高く上げ、半開きになった口から甘い声を漏らす。とにかく早くイキたくてしょうがなかった。それを見て三村が口の端を歪めた冷たい笑みを浮かべたが、長谷部にはそれを見ることは出来なかった。
ふいに、長谷部は何か顔に生暖かいモノが当たっているのに気付いた。顔を上げると、山口がカメラを構えたまま、そそり立った自分のモノを長谷部の顔に近付けていたのだ。長谷部が顔を上げた途端、口の中にそれを突っ込まれた。
「お、おい、山口!」
三村にもこれは予想外だったようで、叱咤する声を上げる。しかし山口は止めようとはしなかった。
長谷部は無理矢理突っ込まれたのと、噎せ返るような青臭い匂いに堪らず山口のモノを吐き出した。途端に山口は耐えきれず長谷部の顔に射精した。長谷部の顔は精液にまみれた。あの、独特の匂いが顔中に広がった。
「ご、ごめ……ん」
そんな長谷部の顔をカメラで撮りながら、山口は小さな声で謝った。噎せ返るような匂いに顔をしかめながら長谷部は、精液を拭う気にもなれず、シーツに顔を擦り付けた。何かもう、どうでも良くなっていた。
それを見ると三村は、体位を変えてきた。長谷部を仰向けにして、脚を掴んで上に乗りかかった。再び深く挿入されると、長谷部は何の躊躇いもなく声を上げた。
「くぅ、あぁ……っ」
今までとは違い、僅かではあるが出し入れして突き上げられた。まだ慣れていない長谷部のそこは、出し入れされるたびに鈍い痛みを覚え、長谷部は悲鳴とも喘ぎ声ともつかない声を上げた。
「はあっ、あ…馬鹿野郎、そんなに揺らすな、死んじまう……っ」
しかし、ローションも手伝って、その繋がった部分はグチュグチュと淫靡な音を立て、出し入れを更に容易にさせていた。
そんな音を自分がさせているのかと思うと、長谷部は中に入っている男をぶん殴ってやりたくなるのだが、もはやそんなことをする気力などは無くなっていた。
心はすっかり萎えきっていたのだが、また、中の方の快感のポイントを突かれると、体の方は更に快感を得ようと貪欲になっていった。もっとそこを突いて欲しくて、腰を浮かせて仰け反った。とにかく早くイきたくてしょうがなかった。
「あ……あぁっ」
そして三村の手が自分のモノに伸びてきたとき、思わず嬉しくて声を上げてしまった。自分で扱くのはやはり何処か抵抗があったのだ。でも、こんな声を上げるぐらいなら自分で扱いたほうがマシなんじゃないかとも思う。
絶頂は思ったより早く来た。三村に少し扱かれただけですぐに果ててしまったのだ。先に達してしまった長谷部が後ろをきつく締め上げ、三村も耐えきれず達した。ズルリと、中から何かが出てくる感覚に、長谷部はただ呆然とするしかなかった。
山口の家では、着々と編集作業が進んでいた。既にダビングをしたテープやらディスクが野積みにされていた。
「オレの痔の治療代ぐらい出るんだろうな」
壁にもたれて煙草を吸いながら、長谷部はその様子を顔をしかめて眺めていた。
「余裕よ、余裕。少なくても一年は遊んで暮らせるぜ」
答えた三村の顔を見ながら どこからそんな自信が出て来るんだろう、と長谷部はいつも思うのだった。
あれから、はっきり言って長谷部は大変だった。
腹は壊すし痔になるしで、病院の世話になる羽目になったのだった。治療代は三村に出させたかったのだが、色々理由を付けてはぐらかされ、結局自腹を切ることになった。「後でギャラ上乗せするから」と言われたが、ちっとも信用なんか出来なかった。
第一、あんな事をした後に二人にまともに顔を合わせる気になどなるわけがなかった。
しかし、三村は何事もなかったように痔と腹痛で苦しんでる長谷部のアパートにやってきて、「差し入れ」と言って長谷部のお気に入りの弁当屋のカツ丼を持ってきたのだった。
腹痛で苦しんでいるのに、食えるわけがないだろ!? と一蹴すると、「あ、そう」と言って、長谷部の目の前でそのカツ丼を平らげたのだった。その間、長谷部は何度か三村の首を絞めようとしたが、成功せずに終わった。
「つうかさ、お前、ホントに痔になったのか? あン時別に血とか出てなかったと思ったけどな」
平然とあの時の話をしてくる三村を、長谷部は憎々しげに睨み返した。こんなデリカシーが無い奴も珍しいんじゃないか。
「内出血したんだよ、馬鹿野郎! ンなこと嘘付いてどーすんだよ!!」
何かもう、こんな奴と話しているのも馬鹿馬鹿しくなってくる。怒った長谷部は山口の家から出ていこうとした。
「ゴメンゴメン。ガストで奢るからさ~、許してくれよ、なあ」
帰ろうとした長谷部を三村が肩を掴んで引き留めた。
「ガストォ? 三村、お前筋金入りのケチだな…」
「じゃあ、吉牛でいいか?」
「レベルダウンしてるじゃあねーか!」
そして結局、ガストに行くことになったのだった。