中身のない瓶詰め

第一話


「長谷部、話があるんだが」
 三村が深刻そうな顔をして詰め寄ってきた。
「ん? オレはねえよ」
 三村がこういう顔をするときはロクな事がない。長谷部は無視に徹しようとした。
「そう言うなって、訊けよ、なあ」
 無理に腕を引っ張ってくる。三村は眼鏡をかけ、如何にも真面目で堅そうな外見をしていたが、内面は正反対のヤツだった。
「良い儲け話があるんだ。絶対軽く稼げる。それには長谷部、お前の協力が必要なんだよ」

 ファミレスの隅で、 長谷部と三村、そして山口がコーヒー一杯で密談をしていた。この三人は付属の高校の頃からの付き合いで、腐れ縁とも言うべき仲だった。お互い嫌なヤツだな、と思いながら何故かいつも一緒にいるのだった。
「で、何? またネズミ講でもすんのか?」
 長谷部はいかにも嫌そうな顔をして、三村を睨んだ。三村はいつも、いかに楽に金を稼げるか、ということばかり考えているヤツで、今までも怪しい商売を学業の傍らやっていたのだった。
 長谷部は何でこんなヤツと自分は連んでいるんだろう、と思うのだが、三村の強引さにはいつも流されてしまうのだった。
「ネズミ講ならお前の協力なんかいらねーだろ」
 三村の隣には山口が座っており、彼はこの話を承知している様子だった。山口は割と大人しめで、自分の意見を強く言う方ではないのだが、それも三村と比べているからなのだろう。
「じゃあ、何なんだよ」
 大真面目な顔をして、三村が真っ直ぐに長谷部を見つめた。
「AVだ」
「は?」
 それに対して、長谷部は不意を突かれて何とも間抜けな顔をしていた。



「……だからって何で、オレなんだよ」
 三村の部屋で、ベットに座りながら長谷部がブツブツ言っている。
「だって、俺達三人の中で考えたら、お前が一番合ってるだろ?」
 確かにそうだった。三村はゴツイ顔付きで、体も大きかったし、山口はあまり清潔感のない顔をしていた。長谷部は、高校まで水泳をしていたので程良く筋肉も付いていたし、目つきは悪かったが割と整った顔立ちをしている。
「そうじゃなくて、適当に女引っかけたりすりゃいいだろ? 第一、男モノなんて売れねーよ」
「そんな事して訴えられたらどーすんだよ。女は怖ェーからなァ」
 山口と色々セッティングしながら三村が答える。機材は全てオーディオマニアの山口の物だった。最新のデジタルビデオや、照明まで用意していた。
「男モノだって、マニアックなヤツの間では高く売れるって。俺が言うんだから間違いない」
 どこまでも自信過剰なヤツだった。
「ホレ、これ飲めよ」
 そういって三村が渡した物は、精力剤だった。
「これ高かったんだからな~。大事に飲めよ」


 山口が撮影で、三村がタチ役だった。長谷部は何でこんなことになったんだろうと思いながら、いつも三村に流されている自分を呆れ返った。
「オレ、これ飲んでも絶対興奮しないと思うんだけど」
 長谷部は当然、同性との経験など無かった。
「色々勉強したから大丈夫。テクニックなら任しとけ。何だったら、AVでも先に観とくか?」
 三村は山口に言って、ビデオにAVをセットさせた。裏の凄い物だった。
「これ、とっておきだったんだケドよ、お前のために出血大サービスな」
「自分のため、だろ?」
 三村が人のために何かすることなど、あるはずがなかった。でも勿体ないので、AVは観ることにした。


 ギャラは、長谷部が半分で、あと四分の一ずつを三村と山口で分け合う事になった。
 はじめ、三等分と提示してきた三村だったが、長谷部は断固として讓らなかった。というか、出るつもりなどなかった。
 しかし、三村が「それなら半分お前にやるよ」と言ったら、思わずOKしてしまったのだ。おそらく口車に乗ってしまったんだろう。三村はそういう所が非常に上手いヤツだった。



 AVが佳境に差し掛かってきた頃、三村が後ろから羽交い締めにして、服を脱がし始めてきた。
「お、おい、何だよ、突然」
「もう撮ってるから、あんまり余計なこと喋るな」
「なっ……」
 気が付いたら、山口が既にカメラを回していた。三村は長谷部のジーンズに手を掛けて下ろした。
「お前、もうちょっと色っぽい下着つけろよな……これも買ってくりゃ良かったな」
 三村は長谷部の二枚千円のユニクロのトランクスを見ながら呟いた。
「うるせーな、オレこれしか持ってねーんだよ」
 長谷部はそう言って毒突いたが、さっきのAVのせいで先走りが出ている自分のモノが気になってしょうがなかった。三村がトランクスに手をかけると、さすがに恥ずかしさでその手を抗ってしまった。
「何だよ、往生際が悪いぞ」
 体格で既に負けている長谷部が敵うはずもなく、一糸纏わぬ姿をカメラの前に晒した。後ろから抱えられているため、自分のモノも丸見えだった。脚を必死に閉じようとしても、三村が無理に開かせようとする。
 長谷部が僅かな抵抗をしている隙に、三村が首筋に顔を埋め舌を這わせてきた。長谷部が弱い耳の後ろも丁寧に舐める。もっと乱暴にされると思っていた長谷部は、ちょっと拍子抜けした。
 しかし、かえって丁寧な愛撫が、余計高振りを促すことになった。さすがに声は出なかったが、思わず溜め息が漏れる。さっきのドリンク剤が効いてきたのだろうか。
 そして次は乳首を責めてきた。そんな所を愛撫されたことはなかったので、思わず飛び退いてしまった。舌で丁寧に転がされると、自分でも思ってもみなかった程固くなっていく。何度も吸われ、舌で転がされ、腰の辺りからゾクッとするような快感が上ってきた。
「はあ……あ……」
 愛撫に合わせてまた溜め息が漏れる。
「……もっと声出せよ。ワザとでも良いからさ」
 乳首から口を離して三村が見上げながら言ってきた。顔を見ると、興奮が少し冷めた。
「出ねーよ」
 長谷部は恥ずかしさで顔を背けた。何で自分は、こいつに抱かれているんだろう。頭の隅の方のどこか冷静な部分でそう思った。
 しかし、三村の舌が段々下に降りてくると、そうもいかなくなってきた。
「お、おい、ホントにそこ舐めんのかよ」
「当たり前だろ」
 そう言うと、三村は何の躊躇いもなく、先走りですっかり濡れている長谷部のモノをくわえ込んだ。思わず今まで我慢していた声が漏れる。
「……っ、あっ……」
 まず全体を口にくわえて舌で扱くと、次に裏の筋に舌を這わせた。そして一番感じる先の方を舌先でつつかれ、長谷部は体の奥から沸き上がる快感に、体をビクつかせた。今までこんな濃厚なフェラをされたことはなかった。そこから溶けていってしまいそうな感覚に、長谷部は三村の頭を押さえつけ、仰け反る。
「はあ…あっ、あ……」
 自分でも、こんな声が出るのかと思うほど鼻にかかった甘い声が出た。
「もっと声出せよ。多少大袈裟でも構わん」
 そう言われると、出したくなくなる。長谷部はささやかな抵抗として、必死に声を抑えた。
 すると、今まで丁寧な愛撫だったのが途端に激しくなってきた。三村が長谷部のモノから口を離し、手で扱いてきたのだ。長谷部は急速な快感に、ベッドに倒れ込んで耐えた。
「あっ……、や、やめろ、やめろって、……ああ……っ」
 長谷部は今にも達してしまいそうだった。必死に三村の手を抗おうとするが、それは叶わなかった。
 今度は長谷部の脚を大きく持ち上げ、片手で長谷部のモノを扱きながらその後ろに舌を這わせる。
「ひっ…、な、何…?」
 初めての感覚に、変な声を上げてしまった。三村は執拗にそこを責める。その愛撫は丁寧で、三村の人柄を考えるとちょっと可笑しい気がする。でも今の長谷部にそんなことを考える余裕はなかった。
「ちょ、ちょっと待て、そんなトコまでやること無いだろ!?」
 無理な体勢から必死に声を上げる。しかしその声も三村にさらりと無視された。周辺を丁寧に舐められ、さらに奥に舌を入れようとつつかれると、その生暖かい感触が段々と快感になっていき、声を上げずにいられなくなっていった。
「ああ、あ…っ、い、イきそ…う…」
 アナルを舐められ、ペニスを手で扱かれ、長谷部は上擦った声を上げた。息をするのも辛いほどの快感に、我を忘れそうになる。
「あっ、イク……っ、ああっ…」
 長谷部は体を仰け反らせ、三村の手の中で射精した。体がビクンと跳ねる。射精した後のペニスを三村が手の中で転がすと、敏感になりすぎたそこの感覚に、長谷部は泣きそうな声を上げて喘いだ。



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